那須高原の宿 山水閣

那須御用邸のほど近く、那須街道から一本入った坂道を上って行くと、緑の中に溶け込むように佇む、趣ある日本家屋が現れる。


山水閣に一歩足を踏み入れると、昭和初期の木造建築の醸し出す暖かな風情の中に、自らもサイクリストである宿主のモダンなセンスが隅々まで感じられる。ただの老舗旅館ではない。

お客様に心から寛げる時間をと、長い時をかけて積み重ねられてきた想いと心配り。
それは、山水閣に滞在するサイクリストにとっても、最も心に残る体験と感動を与えることだろう。
心地よい汗を滲ませながら、自らのロードバイクを押して山水閣の門をくぐると、最初の感動が待ち受けている。
玄関ホールでは、スタッフが身をかがめて、愛車のタイヤの汚れを丁寧に拭き取ってくれるのだ。
これぞニッポンのおもてなし。これで安心して、我が愛するバイクをお部屋まで持ち込むことができる。

そう、山水閣では、自分の泊まる部屋へ自転車を持ち込んで、目の前で愛でながら寝ることができるのだ。(但し、持込みができない部屋もある。)
思い入れのある大切な愛車。部屋へ持ち込む際には、自ら担いで(軽いバイクはこういう時にも良い)慎重に運ぼう。転がしてよいと言われても、ここはやはり持ち上げていきたい。
山水閣のように、玄関で靴を脱いで上がる風情ある和風旅館で、部屋への自転車持ち込みを歓迎してくれるという宿は、日本広しといえどもまだまだ少ないだろう。
ここ一つをとっても、「サイクリストウェルカム」な「おもてなし」を感じるではないか。

昭和初期の木造建築の風情を残しながら、全13室のゆったりとした空間へと改築している山水閣。
二間客室なら、板の間に自転車を何台か置いても、なお広々としたスペースでゆっくりと寛ぐことができる。


もちろん、フレンチバルブ対応の空気入れポンプ等も完備だ。

那須の山々に挑戦し、あるいは高原の爽やかな風を全身に受け、豊かな自然を満喫したライドの後は、那須の旅のもう一つの大きな魅力、温泉を堪能したい。
そしてここ山水閣は、那須でも最も歴史ある湯本温泉地区の温泉宿。いやがおうにも期待は高まるというもの。
その期待にしっかりと、かつ新鮮な驚きを伴って応えてくれるのが、山水閣の山水閣たる所以か。
まずは、最近オープンしたばかりの新しい貸切風呂。完全予約制で有料(1組50分 3,240円)となる天然石造りのお風呂「五葉」がそれだ。
他の貸切風呂が、空いていれば利用可能というスタイルで、混み合う時間は早い者勝ちになってしまいがちなのに対して、五葉は事前に(予約時/チェックイン時)予約した時間に確実に貸切利用できるという点が特徴。
汗をかいた身体で順番待ちをする必要もなく、決まった時間に確実に、他人の目を気にせずに、落ち着いた雰囲気の広々とした湯船に思い切り身体を伸ばすことができるというわけだ。

しかも、五葉の脱衣所の洒落た椅子やテーブルの上には、水分補給に適したドリンクや、タオルも用意されている。

もちろん、男女別の大浴場もある。
山水閣の掛け流しの源泉はアルカリ性単純泉で、肌当たりも丸く、長湯ができてしまうお湯。
疲労回復はもちろん、美肌にも効果があるということだ。
サイクリストにとって嬉しいのは、チェックアウトして最後の日のライドを楽しんだ後も、宿泊者は山水閣のお風呂を利用することができること。最終日もしっかり走り、温泉で汗を流して気持ち良く帰途につきたい。

温泉からあがったら、汗にまみれたサイクルウェアはどうするか?
ここで、またひとつ、山水閣ならではのサイクリストへのおもてなしに感動させられる。
チェックイン後、18:00迄に宿のスタッフに汚れたサイクルウェアを預けてお願いすれば、洗濯、乾燥をしたうえで翌朝に返してもらえるのだ。翌朝の早朝に使用を希望の場合には、洗濯・脱水までしたウェアをその日のうちに受け取り、部屋干しにすることもできる。いずれも無料。
荷物をできる限り少なくしたい自走・輪行旅はもちろん、汗に汚れたウェアを長時間放置することによるトラブルを避けるためにも、とてもありがたいサービスだ。

ライドの疲れを癒すもうひとつのサービスとして、山水閣では「アロマリンパトリートメント」も用意されている。
背中や腰も含めた全身をマッサージでほぐしてもらうもよし、足だけを集中的にケアするもよし。女性はもちろん、男性も利用することができる。
旦那様が峠へのヒルクライムにチャレンジしている間、奥様は優雅に全身コースでリラックス、といった利用の仕方もありそうだ。

夕食は、地の食材と旬の食材をふんだんに使った体に優しい創作懐石。
那須の大地が育んだ新鮮な食材が四季の彩りに盛りつけられた、食べ飽きない和の味わいだ。
地元栃木の酒蔵がつくる美味しい日本酒との相性も最高だ。

食事の後は、木立の中庭を通って別邸 回(かい)のバーラウンジ206へ。
大きな窓とアンティークなソファーが心地よい、落ち着いた雰囲気の中、バーテンダーが作るオリジナルカクテルや、豊富な種類のウィスキーを楽しみながら語り合う時間。
丸一日のライドを共にすれば、もう旧知の仲間。連帯感はさらに高まる。話の尽きぬ夜の部も、自転車旅の醍醐味だ。